人手不足をリスクに挙げる上場企業は、
9年で8倍になった。
有価証券報告書の「事業等のリスク」に「人手不足」と書いた上場企業を、2017年度から2026年度まで全社で数えた。さらに、その段落をAIで1つずつ読み、誰の人手不足なのかを分けた。
23社から184社へ。
「事業等のリスク」に「人手不足」と書いた上場企業は、2017年度の23社(0.68%)から、2025年度は184社(4.71%)になった。2026年度は、提出済みの2,609社のうち154社(5.90%)で、まだ増えている。
リスク欄が長くなったせいで、どの語も一様に増えただけかもしれない。そこで、ほとんどの会社が書く「為替」の割合も出した。こちらは57.5%→58.0%で、ほぼ動いていない。
3社に1社は、取引先の人手不足を書いている。
「人手不足」と書いた段落をAIで1つずつ読み、4つに分けた。自社の人手不足、取引先(運送会社・外注先・工事業者・顧客)の人手不足、人手不足が需要を生む商機、景気の説明として触れただけのもの、の4つ。
伸びが速いのは取引先の人手不足だ。2017年度の5社から2025年度は59社へ、約12倍になった。自社の人手不足(14社→104社、約7倍)より速い。人手不足と書いた会社に占める割合も、22%から32%に上がった。2026年度の速報では34%。
| 年度 | 社数 | 自社 | 取引先 | 商機 | 景気 | 取引先の割合 |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 2017 | 23 | 14 | 5 | 4 | 0 | 22% |
| 2018 | 39 | 24 | 8 | 7 | 0 | 21% |
| 2019 | 56 | 34 | 14 | 8 | 1 | 25% |
| 2020 | 105 | 70 | 27 | 9 | 4 | 26% |
| 2021 | 105 | 69 | 31 | 7 | 3 | 30% |
| 2022 | 121 | 74 | 34 | 12 | 6 | 28% |
| 2023 | 133 | 79 | 37 | 13 | 10 | 28% |
| 2024 | 163 | 94 | 48 | 15 | 14 | 29% |
| 2025 | 184 | 104 | 59 | 19 | 11 | 32% |
| 2026* | 154 | 88 | 53 | 10 | 10 | 34% |
* 2026年度は速報(提出済みの2,609社。3月決算が中心)。
陸運業では、5社に1社近くが書く。
業種で見ると、陸運業が最も高い。2017年度は56社中2社だったが、2025年度は61社中11社(18.0%)になった。書いているのは鉄道・バス・タクシー・トラックの会社で、11社中10社が自社の運転士やドライバーの不足として書いている。鴻池運輸は「2024年問題」を名指ししている。
| 業種 | 2017 | 2025 | 2025 割合 |
|---|---|---|---|
| 陸運業 | 2/56 | 11/61 | 18.0% |
| 倉庫・運輸関連 | 0/31 | 4/34 | 11.8% |
| 小売業 | 8/286 | 34/323 | 10.5% |
| 鉄鋼 | 0/38 | 3/38 | 7.9% |
| ガラス・土石製品 | 0/50 | 4/52 | 7.7% |
| 食料品 | 0/117 | 8/124 | 6.5% |
| 卸売業 | 1/280 | 19/304 | 6.3% |
| 銀行業 | 0/70 | 5/82 | 6.1% |
| 精密機器 | 0/47 | 3/51 | 5.9% |
| 金属製品 | 1/83 | 5/88 | 5.7% |
業種は東証33業種。2025年度に30社以上ある業種だけを、2025年度の割合が高い順に並べた。
人手不足は運送と建設で起き、ほかの業種に波及している。
人手不足が最も深刻なのは、運送と建設だ。2025年度の有効求人倍率は、全職業の1.10倍に対し、トラックなどの運転を含む「輸送・機械運転従事者」は2.15倍。2024年4月からはトラックドライバーの残業に年960時間の上限がかかり、国の検討会は、何も手を打たなければ2030年に営業用トラックの輸送能力が34.1%足りなくなると試算した。帝国データバンクによると、2025年の人手不足倒産は427件で過去最多、うち建設業が113件、物流業が52件だった。
この2つの業種は、ほかのあらゆる業種に「運ぶ」と「建てる」を売っている。だから人手不足は、そこで止まらずに波及する。取引先の人手不足を書く会社は、2017年度の5社から2025年度は59社になり、その相手の多くは運送会社と工事会社だ。水産物卸の大水は「トラックドライバーの労働時間規制の強化や人手不足」を、通販のハルメクは「商品を配送する運送業者を確保できなくなることによる配送不能」を、中古住宅の東武住販は「工事業者側の人手不足による人件費の上昇」を挙げる。取引先の人手不足を書いた会社に卸売業(10社)と小売業(7社)が多いのは、運んでもらう側だからだろう。
波及した人手不足は、決算書では人件費ではなく、運賃・工事費・外注費として原価に混ざるので見えにくい。人を雇っていない会社にも人手不足が届いていることは、有報のリスク欄で、会社自身が書き始めたことで初めて見えてくる。
数え方と注意。
- 対象は、その年度に有価証券報告書を出した上場企業(証券コードのある会社)。年度は決算期末の年。データはEDINET(金融庁)の有報。
- 「事業等のリスク」の欄に「人手不足」の文字があるかで数えた。人材不足・労働力不足などの言い換えは数えていない。
- 2026年度は、2026年8月30日までに提出された分(3月決算が中心)。12月決算などの会社はまだ含まない。
- 2020年3月期から開示のルールが変わり、リスク欄が長くなった(1社あたりの文字数の中央値は2017年度2,272字、2020年度3,495字)。2020年度の伸びには、その影響も含まれる。
- 区分はAIが段落ごとに判定した。2025年度の30段落を人が読んで照合したところ、照合できた28段落のうち24段落で一致した。外れたのは「取引先」を「自社」とするものが多く、取引先の社数は少なめに出ている可能性がある。
- 2017年度の上場企業数(3,391社)は実際より少ない。その後に上場をやめた会社の一部が含まれていない可能性がある。
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