金利上昇をリスクに挙げる上場企業は、
この1年で1割増えた。
日本はマイナス金利を解除し、金利のある世界に戻った。有価証券報告書の「事業等のリスク」に金利上昇と書いた上場企業を、2017年度から2026年度まで全社で数えた。さらに、その段落をAIで1つずつ読み、金利上昇がどの経路で会社に効くのかを分けた。
マイナス金利の解除後、伸びが速まった。
「事業等のリスク」に金利上昇と書いた上場企業は、2017年度の421社(12.42%)から、2025年度は607社(15.54%)になった。2026年度は、提出済みの2,788社のうち507社(18.19%)。マイナス金利だった2023年度までの6年間は、割合が平均で年0.3ポイントずつ上がる程度だったが、解除後は2025年度に0.73ポイント、2026年度は提出済みの会社で1.6ポイント上がった。
2026年度に提出済みの会社に限定すると、前の年度の454社から497社へ、1年で約1割増えた。新たに書き加えた会社は54社、書くのをやめた会社は11社だった。
8割は、自社の借入コストを書いている。
金利上昇に触れた段落をAIで1つずつ読み、金利上昇がどの経路で会社に効くかで、次の5つに分けた。
① 借入コストの増加
② 顧客の需要減
③ 保有資産の値下がり(債券など)
④ 取引先・融資先の経営悪化
⑤ その他(言及のみ)
| 年度 | 社数 | ① | ② | ③ | ④ | ⑤ | ①の割合 |
|---|---|---|---|---|---|---|---|
| 2017 | 421 | 315 | 59 | 48 | 7 | 18 | 75% |
| 2018 | 474 | 355 | 64 | 57 | 8 | 18 | 75% |
| 2019 | 492 | 372 | 67 | 56 | 8 | 18 | 76% |
| 2020 | 492 | 380 | 65 | 56 | 7 | 16 | 77% |
| 2021 | 520 | 409 | 65 | 55 | 6 | 20 | 79% |
| 2022 | 538 | 426 | 72 | 55 | 8 | 22 | 79% |
| 2023 | 561 | 439 | 81 | 54 | 11 | 31 | 78% |
| 2024 | 584 | 457 | 80 | 55 | 12 | 34 | 78% |
| 2025 | 607 | 480 | 80 | 58 | 11 | 40 | 79% |
| 2026* | 507 | 402 | 56 | 59 | 13 | 30 | 79% |
* 2026年度は速報(提出済みの2,788社。3月決算が中心)。
最も多いのは借入コストの増加で、2017年度の315社から2025年度は480社になり、割合も75%から79%に上がった。次に多い顧客の需要減(2025年度80社)は、約半分の41社が不動産業で、住宅や投資用マンションの買い手が金利で離れることを挙げる。保有資産の値下がり(58社)は、42社が債券を持つ銀行だ。
不動産業では、6割を超える。
業種で見ると、不動産業が最も高い。2017年度は96社中51社だったが、2025年度は132社中83社(62.9%)になった。次いで銀行業(54.9%)、陸運業(36.1%)。陸運業で書いている22社の多くは鉄道会社で、線路や車両への長い投資を借入で賄う。
| 業種 | 2017 | 2025 | 2025 割合 |
|---|---|---|---|
| 不動産業 | 51/96 | 83/132 | 62.9% |
| 銀行業 | 34/70 | 45/82 | 54.9% |
| 陸運業 | 12/56 | 22/61 | 36.1% |
| その他金融業 | 12/29 | 14/43 | 32.6% |
| 非鉄金属 | 5/31 | 7/33 | 21.2% |
| 証券、商品先物取引業 | 4/31 | 7/33 | 21.2% |
| 小売業 | 42/286 | 58/323 | 18.0% |
| 金属製品 | 8/83 | 15/88 | 17.0% |
| 輸送用機器 | 8/78 | 13/80 | 16.3% |
| 機械 | 23/200 | 32/213 | 15.0% |
業種は東証33業種。2025年度に30社以上ある業種だけを、2025年度の割合が高い順に並べた。
金利上昇のリスクは、借金で事業を回す会社に集まっている。
日本銀行は2024年3月にマイナス金利を解除し、2026年9月18日には政策金利を1.25%程度に引き上げた。1995年以来の水準だ。銀行の貸出金利も上がり、期間1年未満の新規貸出の平均金利は2026年7月に1.49%になった。リスク欄に金利上昇を書き加える会社が増えているのは、この流れに沿っている。
ただし、書いている会社には偏りがある。金融を除く上場企業3,650社で比べると、借金(有利子負債)が現金より多い会社は、金利上昇を書いた会社では567社中402社(71%)、書いていない会社では3,083社中1,002社(33%)だった。業種で見ても、不動産業と鉄道会社が並ぶ。書いている会社の多くは、借りたお金で事業を回す会社だ。
影響の大きさも、そこに集まる。帝国データバンクの試算(2026年9月)では、借入金利が0.25%上がると、企業の経常利益は平均1.9%減るが、不動産業では5.4%減る。不動産業は、自社の借入コストに加えて、買い手が離れることも書く。アグレ都市デザインは「住宅価格の高止まりや金利の上昇」による販売の長期化を挙げる。住宅ローン比較サービスのMFSは、「本格的な金利上昇局面への移行」で金融機関が広告を絞り、モゲチェック事業の売上高が前期比36.8%減ったと書いている。
反対に、日本企業全体で見れば、金利上昇はまだ大きな負担ではない。三菱UFJリサーチ&コンサルティングによると、企業の利払いは営業利益に比べて低い水準で安定しており、借入金利が0.5ポイント上がっても、増える利払いは経常利益の3%程度だという。金融を除く上場企業の6割は、借金より現金のほうが多い。金利上昇で苦しくなるのは日本企業全体ではなく、借りたお金で事業を回す会社と、その客だ。リスク欄に金利上昇を書き加える会社が増えているのは、その範囲が少しずつ広がっていることを示しているのだろう。
数え方と注意。
- 対象は、その年度に有価証券報告書を出した上場企業(証券コードのある会社)。年度は決算期末の年。データはEDINET(金融庁)の有報。
- 「事業等のリスク」の欄に「金利上昇」「金利の上昇」「金利が上昇」のいずれかがあるかで数えた。「金利変動」「金利の変動」など、上昇と書いていない記載は数えていない。
- 2026年度は、2026年10月18日までに提出された分(3月決算が中心)。12月決算などの会社はまだ含まない。
- 2020年3月期から開示のルールが変わり、リスク欄が長くなった(1社あたりの文字数の中央値は2017年度2,272字、2020年度3,495字)。2020年度の伸びには、その影響も含まれる。
- 5つの分類は、AIが該当する段落を1つずつ読んで判定した。1社に複数の段落があれば、複数の分類に数えた。2025年度の30段落を人が読んで確かめたところ、28段落で判定は妥当だった。外れた2段落は、投資用マンションの買い手の返済負担を、借入コストや取引先の分類に入れたもので、顧客の需要減の社数は少なめに出ている可能性がある。
- 借金と現金の比較は、刀が各社の最新の有報から計算した有利子負債と現金による(金融4業種を除く)。
- 2017年度の上場企業数(3,391社)は実際より少ない。その後に上場をやめた会社の一部が含まれていない可能性がある。
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