有報のリスク欄でAIに触れる上場企業は、
9年で18倍になった。
有価証券報告書の「事業等のリスク」でAI(生成AI・人工知能を含む)に触れた上場企業を、2017年度から2026年度まで全社で数えた。さらに、AIへの言及内容を6つに分類した。
31社から572社へ。
「事業等のリスク」でAIに触れた上場企業は、2017年度の31社(0.91%)から、2025年度は572社(14.64%)になった。2026年度は、提出済みの2,609社のうち529社(20.28%)で、5社に1社に達している。
2026年度に提出済みの会社に限定した場合、前の年度の297社から529社へ、1年で1.8倍に増えた。
事業の代替を挙げるのは1割。増えているのは、AIの利用に伴うリスクだ。
各社の有報を読み、AIへの言及内容から、以下の6つに分類した。
① 事業の代替
② 対応の遅れ
③ 利用に伴うリスク
④ 課題解決への活用
⑤ 需要の拡大
⑥ その他(言及のみ)
| 年度 | 社数 | ① | ② | ③ | ④ | ⑤ | ⑥ | ③の割合 |
|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
| 2017 | 31 | 1 | 17 | 0 | 3 | 5 | 7 | 0% |
| 2018 | 61 | 4 | 25 | 1 | 8 | 14 | 15 | 2% |
| 2019 | 91 | 4 | 36 | 5 | 16 | 22 | 21 | 5% |
| 2020 | 188 | 8 | 68 | 7 | 60 | 46 | 26 | 4% |
| 2021 | 223 | 10 | 77 | 10 | 78 | 60 | 28 | 4% |
| 2022 | 246 | 11 | 84 | 11 | 89 | 72 | 27 | 4% |
| 2023 | 309 | 25 | 109 | 26 | 99 | 83 | 34 | 8% |
| 2024 | 408 | 39 | 142 | 59 | 123 | 96 | 46 | 14% |
| 2025 | 572 | 65 | 223 | 101 | 171 | 121 | 53 | 18% |
| 2026* | 529 | 56 | 179 | 152 | 170 | 96 | 57 | 29% |
* 2026年度は速報(提出済みの2,609社。3月決算が中心)。
AIによる事業の代替を挙げる会社は1割にとどまり、2026年度の速報でも変わらない。最も多いのは対応の遅れで(2025年度39%)、乗り遅れを危惧する会社が多いことがわかる。一方で、AIの利用そのものへの懸念も増えている。利用に伴うリスクを挙げる会社は、2022年度の11社から2025年度は101社、2026年度の速報では152社になった。2026年度に提出済みの会社に限定した場合、1年で約3倍になった。
情報・通信業では、3社に1社が書く。
業種で見ると、情報・通信業が最も高い。2017年度は339社中18社だったが、2025年度は604社中211社(34.9%)になった。次いでサービス業(21.0%)、電気機器(18.7%)。
書き方は業種で違う。2025年度、情報・通信業では、対応の遅れが53%と半分を超える。AIを自社の技術として追いかける側だからだ。ほかの業種では、課題解決への活用(36%)と、利用に伴うリスク(20%)が多い。
| 業種 | 2017 | 2025 | 2025 割合 |
|---|---|---|---|
| 情報・通信業 | 18/339 | 211/604 | 34.9% |
| サービス業 | 4/335 | 117/558 | 21.0% |
| 電気機器 | 2/215 | 43/230 | 18.7% |
| その他金融業 | 0/29 | 8/43 | 18.6% |
| 化学 | 0/186 | 26/200 | 13.0% |
| 医薬品 | 0/55 | 10/80 | 12.5% |
| 陸運業 | 0/56 | 7/61 | 11.5% |
| 銀行業 | 0/70 | 9/82 | 11.0% |
| 食料品 | 0/117 | 13/124 | 10.5% |
| 非鉄金属 | 0/31 | 3/33 | 9.1% |
業種は東証33業種。2025年度に30社以上ある業種だけを、2025年度の割合が高い順に並べた。
AIで稼ぐのは、つるはしを売る会社だけではない。
AIブームは、よくゴールドラッシュにたとえられる。金を掘った人より、つるはしを売った人が儲けたという話で、AIを開発する企業や、AIを動かす半導体の企業が注目されがちだ。しかしAIは金と違い、それ自体が人の代わりに働く。恩恵は、AIを使う側の会社にも広がる。
その例がリクルートホールディングスだ。2027年3月期第1四半期(2026年4〜6月)、Indeedを中心とするHRテクノロジー事業の売上収益は前年同期比33.2%増、EBITDA+Sマージンは47.4%(前年同期35.0%)で、通期の業績予想を上方修正した。決算説明会では、売上の伸びを、AIが生む付加価値による顧客1社あたりの支出の増加と、利用企業の増加の2つで説明している。そのリクルートも、有報のリスク欄ではAIの普及で「サービス自体が代替されるリスク」を挙げる。AIは同じ会社にとって、リスクにも商機にもなる。
AIを使う側は、もう一部の会社ではない。総務省の令和8年版情報通信白書によると、生成AIを何らかの業務で使う日本企業は86.4%(前回調査は55.2%)。有報でも、AIを課題解決に活用すると書く会社は2025年度で171社あり、うち131社は情報・通信業以外だ。AIの恩恵を受ける非AI企業は、これから数多く出てくるだろう。
数え方と注意。
- 対象は、その年度に有価証券報告書を出した上場企業(証券コードのある会社)。年度は決算期末の年。データはEDINET(金融庁)の有報。
- 「事業等のリスク」の欄に「AI」「AI」「人工知能」「生成AI」のいずれかがあるかで数えた。英字に挟まれたもの(THAILAND・OpenAI・AIoTなど)は数えていない。機械学習・大規模言語モデルなどの言い換えだけの記載も数えていない。
- 2026年度は、2026年8月30日までに提出された分(3月決算が中心)。12月決算などの会社はまだ含まない。
- 2020年3月期から開示のルールが変わり、リスク欄が長くなった(1社あたりの文字数の中央値は2017年度2,272字、2020年度3,495字)。2020年度の伸びには、その影響も含まれる。
- 6つの分類は、AIが該当する段落を1つずつ読んで判定した。1社に複数の段落があれば、複数の分類に数えた。2025年度の42段落を人が読んで確かめたところ、35段落で判定は妥当だった。外れには、事業の代替を対応の遅れや課題解決への活用に入れたものが多く、事業の代替の社数は少なめに出ている可能性がある。
- 2017年度の上場企業数(3,391社)は実際より少ない。その後に上場をやめた会社の一部が含まれていない可能性がある。
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