刀 日本株スクリーナー
有報で見る日本 · 2026年10月25日集計

東証の低PBR是正は進んだのか?

東京証券取引所が2023年3月に「資本コストや株価を意識した経営」を求めてから3年。PBR1倍割れは本当に減ったのか。有価証券報告書の経営方針の欄に資本コストやPBRと書いた上場企業を2017年度から全社で数え、その段落をAIで1つずつ読んで中身を分けた。そのうえで、1倍割れだった会社がその後どうなったかを、書いた中身ごとに追った。

01 / 推移

東証の要請を境に、急に増えた。

0%5%10%15%20%2017: 27社 / 3,391社 (0.8%)27社20172018: 43社 / 3,702社 (1.16%)43社20182019: 86社 / 3,774社 (2.28%)86社20192020: 124社 / 3,826社 (3.24%)124社20202021: 138社 / 3,869社 (3.57%)138社20212022: 167社 / 3,905社 (4.28%)167社20222023: 318社 / 3,941社 (8.07%)318社20232024: 652社 / 3,943社 (16.54%)652社20242025: 732社 / 3,907社 (18.74%)732社20252026(速報): 603社 / 2,788社 (21.63%)603社2026速報

経営方針の欄に「資本コスト」「PBR」「株価を意識」のいずれかを書いた上場企業は、2022年度まで少しずつ増え、167社(4.28%)だった。東証の要請が出た2023年度に318社(8.07%)、2024年度に652社(16.54%)と倍々で増え、2025年度は732社(18.74%)。3年で4倍になった。

2026年度は、提出済みの2,788社のうち603社(21.63%)。同じ会社で比べると、前の年度の576社から603社へ増えた。新たに書き加えた会社は117社、書くのをやめた会社は90社だった。

02 / 中身

書いた会社の7割は、施策か数値目標まで書いている。

資本コストやPBRに触れた段落をAIで1つずつ読み、どこまで具体的に書いているかで、次の4つに分けた。

① 具体的な施策(自社株買い・政策保有株の売却・事業別のROIC管理など)

② 数値目標(ROE・PBRの目標、資本コストの数字)

③ 方針の表明

④ その他(言及のみ)

年度社数①②③④①の割合
2017279612133%
20184318815242%
201986262337130%
2020124404251032%
2021138474257134%
2022167555664433%
2023318112100136735%
20246522102412772432%
20257322702602892037%
2026*6032382202281839%

* 2026年度は速報(提出済みの2,788社。3月決算が中心)。

2025年度に書いた732社のうち、施策か数値目標を書いた段落がある会社は500社(68%)、方針の表明だけの会社は232社(32%)だった。ただし、これは資本コストやPBRの語を含む段落の中だけの話だ。同じ有報の別の項目で数値目標を書いている会社もある。

03 / 業種

鉄鋼や非鉄金属では3社に1社、情報・通信業は7%。

業種で見ると、証券(36.4%)、陸運(34.4%)、鉄鋼(34.2%)、非鉄金属(33.3%)が高い。どれもPBRが低い業種で、2025年度のPBRの中央値は鉄鋼が0.59倍、非鉄金属が0.75倍だった。反対に、PBRの中央値が2.36倍の情報・通信業は、書いた会社が7.0%にとどまる。PBRの低い会社ほど書いており、2025年度に1倍未満の会社は28%、3倍を超える会社は9%が書いていた。

業種201720252025 割合
証券、商品先物取引業0/3112/3336.4%
陸運業1/5621/6134.4%
鉄鋼0/3813/3834.2%
非鉄金属0/3111/3333.3%
金属製品0/8326/8829.5%
ガラス・土石製品1/5015/5228.8%
電気機器2/21566/23028.7%
機械0/20057/21326.8%
輸送用機器1/7821/8026.3%
卸売業5/28077/30425.3%

業種は東証33業種。2025年度に30社以上ある業種だけを、2025年度の割合が高い順に並べた。PBRは期末の実績PERから計算できる会社(黒字の会社)だけ。

04 / 考察

施策を書いた会社のPBRは上がった。ただ、1倍はまだ遠い。

PBR1倍割れは減った。とくに大きな会社で減っている。第一生命経済研究所の集計では、プライム市場でPBR1倍未満の会社は2023年2月末の755社(全体の50%)から2026年2月末の405社(27%)になった。野村證券によると、TOPIX500で1倍割れの割合は2026年1月に約20%で、2018年以来の低さだ。一方、刀で上場企業全体を数えると、1倍割れは2022年度の52.5%から2025年度は47.3%で、まだ半分近くが残っている。

東証によると、資本コストや株価を意識した経営について、プライム市場では9割以上の会社が開示を済ませた(2025年7月末)。スタンダード市場では、まだ約半数が開示していない。有報の経営方針の欄に書いた会社は上場企業の2割ほどだが、多くの会社は中期経営計画や決算説明資料など、東証に出す別の資料で開示している。有報に書いていないからといって、取り組んでいないとは限らない。

2022年度に1倍割れだった1,537社を、2023〜2025年度の有報に何を書いたかで分け、2025年度のPBRと比べた。

書いた中身社数1倍以上にPBRの伸び
施策か数値目標36817.4%1.20倍
方針の表明だけ12213.9%1.14倍
書かなかった1,04716.5%1.12倍

「1倍以上に」は2025年度末にPBR1倍以上になった割合。PBRの伸びは2022年度末から2025年度末まで(中央値)。赤字企業は除外。

施策か数値目標まで書いた会社は、PBRが中央値で1.20倍になり、書かなかった会社の1.12倍より伸びた。日本エアーテックは「総還元性向を65%以上」に引き上げ、日鉄ソリューションズは「期初キャッシュ約1,900億円を3年間で1,000億円程度圧縮」すると書いている。方針の表明だけの会社は1.14倍で、書かなかった会社とほとんど変わらない。

それでも、1倍以上になった割合は、施策か数値目標まで書いた会社で17.4%、書かなかった会社で16.5%と、ほぼ同じだった。書いた会社の出発点は中央値で0.59倍だ。PBRが2割上がっても、0.7倍台にしかならない。大きな会社では1倍割れの解消が進んだが、0.5〜0.6倍から動き出した会社にとって、1倍は数年がかりの距離なのだろう。

05 / 数え方

数え方と注意。

  • 対象は、その年度に有価証券報告書を出した上場企業(証券コードのある会社)。年度は決算期末の年。データはEDINET(金融庁)の有報。
  • 「経営方針、経営環境及び対処すべき課題等」の欄に「資本コスト」「PBR」「PBR」「株価を意識」のいずれかがあるかで数えた。「資本効率」「ROE」だけの記載は数えていない。2016年度ごろまでの有報は「対処すべき課題」の欄だけなので、両方を1つの欄として数えた。
  • 2026年度は、2026年10月25日までに提出された分(3月決算が中心)。12月決算などの会社はまだ含まない。
  • 4つの分類は、AIが該当する段落を1つずつ読んで判定した。1社に複数の段落があれば、複数の分類に数えた。2025年度の40段落を人が読んで確かめたところ、34段落で判定は妥当だった。外れの多くは施策と数値目標の取り違えで、考察ではこの2つをまとめて扱った。
  • PBRは、各年度の期末の実績PER×純利益(=期末の時価総額)を自己資本で割って計算した。赤字の年度はPERがないので計算できず、外している。1倍割れの割合はPBRを計算できた会社の中での割合。
  • 考察の追跡は、2022年度にPBR1倍未満で、2025年度のPBRも計算できた1,537社。2023〜2025年度のどこかで施策か数値目標の段落があれば「施策か数値目標」、語は書いたがその段落がなければ「方針の表明だけ」とした。書いたことがPBRを上げたという因果までは示していない。
  • 2017年度の上場企業数(3,391社)は実際より少ない。その後に上場をやめた会社の一部が含まれていない可能性がある。
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