東証の低PBR是正は進んだのか?
東京証券取引所が2023年3月に「資本コストや株価を意識した経営」を求めてから3年。PBR1倍割れは本当に減ったのか。有価証券報告書の経営方針の欄に資本コストやPBRと書いた上場企業を2017年度から全社で数え、その段落をAIで1つずつ読んで中身を分けた。そのうえで、1倍割れだった会社がその後どうなったかを、書いた中身ごとに追った。
東証の要請を境に、急に増えた。
経営方針の欄に「資本コスト」「PBR」「株価を意識」のいずれかを書いた上場企業は、2022年度まで少しずつ増え、167社(4.28%)だった。東証の要請が出た2023年度に318社(8.07%)、2024年度に652社(16.54%)と倍々で増え、2025年度は732社(18.74%)。3年で4倍になった。
2026年度は、提出済みの2,788社のうち603社(21.63%)。同じ会社で比べると、前の年度の576社から603社へ増えた。新たに書き加えた会社は117社、書くのをやめた会社は90社だった。
書いた会社の7割は、施策か数値目標まで書いている。
資本コストやPBRに触れた段落をAIで1つずつ読み、どこまで具体的に書いているかで、次の4つに分けた。
① 具体的な施策(自社株買い・政策保有株の売却・事業別のROIC管理など)
② 数値目標(ROE・PBRの目標、資本コストの数字)
③ 方針の表明
④ その他(言及のみ)
| 年度 | 社数 | ① | ② | ③ | ④ | ①の割合 |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 2017 | 27 | 9 | 6 | 12 | 1 | 33% |
| 2018 | 43 | 18 | 8 | 15 | 2 | 42% |
| 2019 | 86 | 26 | 23 | 37 | 1 | 30% |
| 2020 | 124 | 40 | 42 | 51 | 0 | 32% |
| 2021 | 138 | 47 | 42 | 57 | 1 | 34% |
| 2022 | 167 | 55 | 56 | 64 | 4 | 33% |
| 2023 | 318 | 112 | 100 | 136 | 7 | 35% |
| 2024 | 652 | 210 | 241 | 277 | 24 | 32% |
| 2025 | 732 | 270 | 260 | 289 | 20 | 37% |
| 2026* | 603 | 238 | 220 | 228 | 18 | 39% |
* 2026年度は速報(提出済みの2,788社。3月決算が中心)。
2025年度に書いた732社のうち、施策か数値目標を書いた段落がある会社は500社(68%)、方針の表明だけの会社は232社(32%)だった。ただし、これは資本コストやPBRの語を含む段落の中だけの話だ。同じ有報の別の項目で数値目標を書いている会社もある。
鉄鋼や非鉄金属では3社に1社、情報・通信業は7%。
業種で見ると、証券(36.4%)、陸運(34.4%)、鉄鋼(34.2%)、非鉄金属(33.3%)が高い。どれもPBRが低い業種で、2025年度のPBRの中央値は鉄鋼が0.59倍、非鉄金属が0.75倍だった。反対に、PBRの中央値が2.36倍の情報・通信業は、書いた会社が7.0%にとどまる。PBRの低い会社ほど書いており、2025年度に1倍未満の会社は28%、3倍を超える会社は9%が書いていた。
| 業種 | 2017 | 2025 | 2025 割合 |
|---|---|---|---|
| 証券、商品先物取引業 | 0/31 | 12/33 | 36.4% |
| 陸運業 | 1/56 | 21/61 | 34.4% |
| 鉄鋼 | 0/38 | 13/38 | 34.2% |
| 非鉄金属 | 0/31 | 11/33 | 33.3% |
| 金属製品 | 0/83 | 26/88 | 29.5% |
| ガラス・土石製品 | 1/50 | 15/52 | 28.8% |
| 電気機器 | 2/215 | 66/230 | 28.7% |
| 機械 | 0/200 | 57/213 | 26.8% |
| 輸送用機器 | 1/78 | 21/80 | 26.3% |
| 卸売業 | 5/280 | 77/304 | 25.3% |
業種は東証33業種。2025年度に30社以上ある業種だけを、2025年度の割合が高い順に並べた。PBRは期末の実績PERから計算できる会社(黒字の会社)だけ。
施策を書いた会社のPBRは上がった。ただ、1倍はまだ遠い。
PBR1倍割れは減った。とくに大きな会社で減っている。第一生命経済研究所の集計では、プライム市場でPBR1倍未満の会社は2023年2月末の755社(全体の50%)から2026年2月末の405社(27%)になった。野村證券によると、TOPIX500で1倍割れの割合は2026年1月に約20%で、2018年以来の低さだ。一方、刀で上場企業全体を数えると、1倍割れは2022年度の52.5%から2025年度は47.3%で、まだ半分近くが残っている。
東証によると、資本コストや株価を意識した経営について、プライム市場では9割以上の会社が開示を済ませた(2025年7月末)。スタンダード市場では、まだ約半数が開示していない。有報の経営方針の欄に書いた会社は上場企業の2割ほどだが、多くの会社は中期経営計画や決算説明資料など、東証に出す別の資料で開示している。有報に書いていないからといって、取り組んでいないとは限らない。
2022年度に1倍割れだった1,537社を、2023〜2025年度の有報に何を書いたかで分け、2025年度のPBRと比べた。
| 書いた中身 | 社数 | 1倍以上に | PBRの伸び |
|---|---|---|---|
| 施策か数値目標 | 368 | 17.4% | 1.20倍 |
| 方針の表明だけ | 122 | 13.9% | 1.14倍 |
| 書かなかった | 1,047 | 16.5% | 1.12倍 |
「1倍以上に」は2025年度末にPBR1倍以上になった割合。PBRの伸びは2022年度末から2025年度末まで(中央値)。赤字企業は除外。
施策か数値目標まで書いた会社は、PBRが中央値で1.20倍になり、書かなかった会社の1.12倍より伸びた。日本エアーテックは「総還元性向を65%以上」に引き上げ、日鉄ソリューションズは「期初キャッシュ約1,900億円を3年間で1,000億円程度圧縮」すると書いている。方針の表明だけの会社は1.14倍で、書かなかった会社とほとんど変わらない。
それでも、1倍以上になった割合は、施策か数値目標まで書いた会社で17.4%、書かなかった会社で16.5%と、ほぼ同じだった。書いた会社の出発点は中央値で0.59倍だ。PBRが2割上がっても、0.7倍台にしかならない。大きな会社では1倍割れの解消が進んだが、0.5〜0.6倍から動き出した会社にとって、1倍は数年がかりの距離なのだろう。
数え方と注意。
- 対象は、その年度に有価証券報告書を出した上場企業(証券コードのある会社)。年度は決算期末の年。データはEDINET(金融庁)の有報。
- 「経営方針、経営環境及び対処すべき課題等」の欄に「資本コスト」「PBR」「PBR」「株価を意識」のいずれかがあるかで数えた。「資本効率」「ROE」だけの記載は数えていない。2016年度ごろまでの有報は「対処すべき課題」の欄だけなので、両方を1つの欄として数えた。
- 2026年度は、2026年10月25日までに提出された分(3月決算が中心)。12月決算などの会社はまだ含まない。
- 4つの分類は、AIが該当する段落を1つずつ読んで判定した。1社に複数の段落があれば、複数の分類に数えた。2025年度の40段落を人が読んで確かめたところ、34段落で判定は妥当だった。外れの多くは施策と数値目標の取り違えで、考察ではこの2つをまとめて扱った。
- PBRは、各年度の期末の実績PER×純利益(=期末の時価総額)を自己資本で割って計算した。赤字の年度はPERがないので計算できず、外している。1倍割れの割合はPBRを計算できた会社の中での割合。
- 考察の追跡は、2022年度にPBR1倍未満で、2025年度のPBRも計算できた1,537社。2023〜2025年度のどこかで施策か数値目標の段落があれば「施策か数値目標」、語は書いたがその段落がなければ「方針の表明だけ」とした。書いたことがPBRを上げたという因果までは示していない。
- 2017年度の上場企業数(3,391社)は実際より少ない。その後に上場をやめた会社の一部が含まれていない可能性がある。
今年の有報で、同じ語を書いた会社を探す。
刀は、全上場企業の最新の有価証券報告書から、語や条件で会社を絞り込める日本株スクリーナー。AIが有報を一社ずつ読み、定性的な条件も判定する。
スクリーナーを開く有報で見る日本
人手不足をリスクに挙げる上場企業は、9年で8倍になった 有報のリスク欄でAIに触れる上場企業は、9年で18倍になった 金利上昇をリスクに挙げる上場企業は、この1年で1割増えた AIスクリーニング実例も見る